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非神話化3・教会は史的イエスではなくケリュグマのキリストを信じる

イエスの出来事とキリストの出来事(つまり、史的イエスとケリュグマのキリスト)について、我々はどう考えるべきなのか。

新約聖書は原始キリスト教の信仰の産物であり、当時の神話的な世界観を前提に書かれたものである。彼らは史実としてのイエスを描こうとしたのではない。ケリュグマのキリストを証ししたのだ。何度も言うが、我々は、新約聖書から史的イエスを復元するのは不可能だ。そして、これは出来ないことだが、もし仮に復元できたとしても、史実のイエスは「我々の信仰には無意味だ」とブルトマンは言う。

なぜか。
それは、最初から、キリスト教は史的イエスを信仰してきたのではなく、ケリュグマのキリストを信仰してきたからだ。(ただし、ケリュグマのキリストには史的イエスの反映があり、両者は無関係ではない。)
近代的な聖書批評学以前は、両者は同一視されていたから、両者のズレが問題になることはなかった。だが、聖書の文献的な研究が進んだ今の時代の我々が、史的イエスとケリュグマのキリストを完全に同一視するのは、もう不可能だ。それは聖書が描く神話的な世界と現実の世界を同一視できないのと同じだ。
今でも新約聖書に書かれたキリストを、史実のイエスと同じだと考える人はいる。だがそう信じる人たちは、かなり無理をして信じていると私は思う。


1980年代、20代の私は、専門の先生(キリスト教概論や聖書概論を教えておられる先生)にこうお聞きしたことがある。
「死海文書の発見だってあるのですから、もし、イエス様の直筆の文書や、イエス様の発言を弟子がその場で記録した文書が見つかったら、そういった文書も聖書に加えることになるのでしょうか? また、そうした文書を基に、キリスト教の教義は見直されるのでしょうか?」
先生はおっしゃった。
「まず、そうした文書が見つかる可能性は非常に低いです。イエス様の弟子はガリラヤの漁師などの庶民であり、イエス様と共に行動していた頃は読み書きが出来なかった可能性が高いのです。イエス様ご自身も、紙に何か記したとは聖書のどこにも出てきません。仮にそうした文書が見つかったとしても、それを聖書に加えることはないでしょう。聖書は完成したものとして受け継がれてきました。今後、古代の写本の新発見で字句の修正などはあるかもしれませんが、今まで聖書になかった文書を新たに付け加えることはないでしょう。教義はそれぞれの教派が検討するのでしょうが、キリスト教の教えには長い歴史がありますから、どんな文書が発見されても教義の大きな変更はないと思います」

もし「イエス様の直筆の文書や、イエス様の発言を弟子がその場で記録した文書」が本当に見つかり、新約聖書とかなり違うことが書いてあったら、教会はどうするのだろうかと想像していた。

たとえ、史的イエスの復元につながる重大な発見があったとしても、それでも教会は「史的イエス」ではなく「ケリュグマのキリスト」を信じ続けるのだろう。
キリスト教の信仰は「ケリュグマのキリスト」を信じる信仰だからだ。

キリスト教を信仰する側(教会の側)からは、ブルトマンが言う通り、史実のイエスは「我々の信仰には無意味だ」となる。


ただし、新約聖書は史的イエスにまったく無関心なのかというと、そうでもない。
イエスがガリラヤの出身であること、ヨルダン川で洗礼を受けたこと、弟子を持ち伝道活動をしていたこと、杭(十字架)に磔にされて処刑されたこと、こういった話は、おそらく史実なのだろう。
イエスは処女から生まれたとか、奇跡で病気を治したとか、悪霊を追い出したとか、嵐を静めたとか、水の上を歩いたとか、五千人に食物を与えたとか、何より死んでから復活し昇天したとか、やがて再臨するとか、こう言った話は、それを信じるかどうかはともかく、当時の神話的な世界観によって表現された神話的な記述だ。

ケリュグマのキリストの一部には、実は、史的イエスも混じっている。

(続く)

(伊藤一滴)


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