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HPCによる革表紙の劣化対策

聖書だけではありませんが、戦前の革表紙の本の中に、革が劣化しているものがかなりあります。
高級感のある革製本ですが、クロス製や紙製の表紙に比べ、劣化したものが多いようです。
中世の皮紙(=獣皮紙、羊皮紙とも言うが羊の皮とは限らない)に記された聖書が読める状態で残っているのに、近代の革表紙の劣化が多いのは皮革加工の製法の違いでしょうか。よくわかりません。

明治、大正、昭和初期の劣化した革表紙は、錆びた鉄を触ったときのように、細かい茶色の粉が指につきます。レッドロットと言うんだそうです。
粉が散って本文の紙を汚したり、他の本を汚したりします。困ります。

ずっと対策がわからなかったので、そうした革表紙の本はポリ袋に入れて他の本を汚さないようにし、さらに菓子箱に入れてなるべく光が当たらないようにして保存してきました。参照するときは、他の本から離して、そうっと開くようにしました。


数年前、たまたま下記のサイトを見つけました。

革装本のレッドロット対策
https://www.cfid.co.jp/conservation/redrot/


これはいい!と思いました。
ところが、当時は、HPC(ヒドロキシ・プロピル・セルロース)を簡単に入手できなかったのです。
今は、ネット通販などで少量の販売もあるようですが、数年前は、通販も含め、HPCを少量小売りしてくれる業者を探せませんでした。無水エタノールは薬局やドラグストアで簡単に買えるのに・・・。

やっと、少量入手しました。
上記サイトに書いてある通りの比率で溶液を作り、1日おいてさらに撹拌し、まず目立たない所で試してから、書いてある通りのやり方で、劣化した表紙の革全体に塗ってみました。

すぐ乾きました。そして、粉が出なくなりました。成功です。


さらに、貴重品でない古革でいろいろ試してみました。

その結果、

革の劣化があまりひどいとうまくいきません。
何度も塗ったりすると、革がバリバリになって割れます。劣化がひどいからといって、何度も塗ればよいというものではないようです。塗るのは原則1回で、やむを得ない場合でも、乾かしてからもう1回くらいです。
そのあたり、注意も必要です。

劣化し過ぎて直せない場合は、オリジナルは失われますが、製本屋に頼んで表紙を作り直してもらうしかないのでしょう。


この溶液は保存もできますが、個人の蔵書に使うのであれば何リットルもいりません。50㏄くらいあれば、何冊も塗れます。

サイトには、HPC…20gに対し無水エタノール…1Lとありますが、そんなに作ったら個人では使い切れなくなります。半分でも多すぎると思いましたが、あんまり少量だと計量も難しいんで、その配合比で半分の量で作ってみました。なんか、それでも、一生かけても使い切れないような気がしますが…。

無水エタノールとHPCの粉末を混ぜるときは、フタつきの透明なガラスびん(ジャムなどの空きびん)を使うと便利です。
混ぜるとダマになってちょっと不安なんですが、1日おいて撹拌すると完全に溶けて透明な液体になります。

使うのは「無水エタノール」です。アルコール消毒に使う「消毒用エタノール」にはかなり水分があり、水分が本を傷めるおそれがあるため代用不可だそうです。

当たり前ですがエタノールは蒸発するので溶液を保管する際はフタをしっかりしめておく必要があります。

もちろん、作業中、そして表紙の乾燥まで、火気厳禁で換気も必要です。(部屋がアルコールくさくなります。まあ、嫌な匂いではありませんが。)

保管する場合、この溶液を間違って人が口に入れたりしないよう、用途と成分を紙に書いてビンに貼っておいた方がいいでしょう。(焼酎などのびんに入れると、見た目も匂いもまぎらわしいのでやめた方がいいです。私自身、うっかり飲みそうになった経験者です(笑)。)

やるなら、自分の責任で。


これは、古い革表紙の聖書等の劣化対策としてやってみる価値があります。革が元どおりになるわけではありませんが、触っても手に茶色い粉がつきませんし、粉で紙を汚すこともありません。

(私は、古い聖書その他の本を未来の人たちに残したいのです。)

(伊藤一滴)

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