シロがかわいそう(「ゲゲゲの鬼太郎」第6話)
5月6日(日)の朝、台所でコーヒーを飲んでいたら、突然、茶の間から娘(中1)の泣き声が聞こえたので、兄妹げんかでもしたのかと思って急いで行ってみると、娘は一人でテレビの前にうずくまり声を上げて泣いています。
「どうした? どこか痛いの?」と聞いたら、
「かわいそう、シロがかわいそう。シロは、なんにも悪くないのに」と涙声で言うのです。娘は、テレビアニメの「ゲゲゲの鬼太郎」を見て泣いていたのでした。
録画してあったので、私も後から見ました。考えさせられる内容で、たしかに「シロがかわいそう」でした。
フジテレビ系で放送された「ゲゲゲの鬼太郎」第6話「厄運のすねこすり」です。(内容は、「ゲゲゲの鬼太郎 すねこすり」で検索できます。)
妖怪「すねこすり」は、ぱっと見た感じは子犬のようですが、しぐさは飼い猫そっくりの、かわいらしい妖怪です。何の悪意もありません。人に接し、人から気力を吸い取って生きているのですが、その自覚もないのです。
山村に一人で暮らすおばあさんが、シロと名づけてかわいがっています。やんちゃな猫のようなしぐさが、とてもかわいいのです。シロもおばあさんが大好きみたいです。でも、おばあさんは体調が悪くなり、だんだんそれが悪化しているようなのです。
鬼太郎と目玉おやじから指摘され、シロは、自分が人間の気力を吸っている妖怪だと悟ります。このままではおばあさんが弱って死んでしまうと気づき、シロは去ってゆきます。
山に向かうシロを、体調の悪いおばあさんが追ってゆきます。途中で現れた熊に、シロは妖怪の姿で立ち向かい、傷つきながらもおばあさんを助けます。その姿を見ておばあさんは言うのです。「シロだね」と。
大好きなおばあさんの前で、シロは、悪い妖怪を演じます。気力を吸うためにおばあさんをだましたのだと嘘を言います。追ってきたおばあさんの息子に傘で叩かれ、「うー、やられた」とひっくり返って山に逃げていきます。息子が悪い妖怪を追い払ってくれたということにするために。
熊と戦ったときの傷口から力が流れ出しているシロが、雨の山道をとぼとぼ歩きながら、おばあさんと楽しく過ごした日々を思い出す場面は、見ていてせつなくなりました。
最後に、山から風が吹いてきて、おばあさんは、「シロ、ありがとう」と言うのですけれど、あの風は傷ついたシロの死を意味しているのかと思えて、私も泣きたくなりました。
浜田廣介の『泣いた赤鬼』やアンデルセンの『人魚姫』を思い出しました。青鬼は何も悪くないのに、悪い鬼を演じて去ってゆきます。人魚姫は理解されぬまま水の泡になって消えてゆきます。
異世界の者たちとこの世の人は交流できないのか、仲良くはなれないのか・・・・。
異形の者は、異形の者として生きるしかないのか。救いはないのか・・・・。どんなに人間と仲良くしたいと思って努力しても、許されず、報われず、持って生まれた定めを変えることはできないのか。やるせない。
悪者のふりをして去って行ったシロがかわいそう。これは、娘が声を上げて泣くのもわかります。私も泣きたくなったのですから。
「ゲゲゲの鬼太郎」はこれまで何度もアニメ化されました。人間と妖怪は仲良くすべきだというテーマのときもありました。でも今回のアニメ版は、心に重く響きます。今後、名作として語られるかもしれません。
(伊藤一滴)
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