伝統木造構法 朝日社説要旨と私の意見
2009年6月21日付の朝日新聞の社説「伝統木造構法―匠の知恵を地震列島に」は、実に的を得た主張ですから、その要旨を紹介し、私の考えを述べてみます。
要約して引用
2年前の耐震偽装事件をきっかけに建築基準法が改正され、伝統構法の住宅にも厳しい審査が求められるようになった。そのため、伝統構法をあきらめるケースも出てきた。
現行法では建築確認の費用がかさむうえ、複雑な構造計算や審査に半年以上かかることもある。
ハウスメーカーの木造住宅の多くは在来軸組構法で、合板や筋交いを使って揺らさないように造り、壁量計算で容易に基準法をクリアできる。 それは、人間の技術で自然を克服しよう、地震力を技術で押さえ込もうという発想だ。
一方、伝統構法は自然に勝とうとせず、柔構造で地震力をやり過ごすに工夫をしている。 柱と横材の立体格子の中で地震力を分散し吸収させる。土壁は限界を超えたら壊れて衝撃力をそぐ。 民家や神社仏閣にみられる「石場建て」の場合、激震に襲われたら、石の基礎の上の柱脚がずれたり浮き上がったりして、地震の揺れが地盤から建物に伝わるのを遮る。
国土交通省は昨年度から伝統構法の設計法づくりに乗り出しているが、その委員会では「石場建て」による設計法が見送られそうな流れになってきた。「石場建て」は関西では認められた例もある。国交省は設計法をつくり、各地で建てられるようにしてほしい。
伝統構法の民家は、地震で傾いても接合部に大きな損傷がなければ修復できる。壁土も再使用が可能だ。大地震をしのいで、いまも使われている民家も多い。
地震列島で大工や左官が培ってきた技に謙虚に向き合い、その知恵を生かしていきたい。
引用終了
こうやって要約してみると、伝統構法という歴史的技術が、なぜ素直に認めてもらえないのか不思議です。
その安全性はすでに歴史が証明しているはずなのに、なぜ「複雑な構造計算や審査」が求められるのか。
建築基準法は「改正」のたびに、技術のある小さな工務店の職人を苦しめ、大手に有利になるようです。住宅建築に関しては、業者の規模の大きさと品質は関係ありません。住宅に限りませんが、大手というのは、並級品を大量に供給できる企業のことです。
国土交通省のお役人たちはハウスメーカーや確認申請機関などに天下りしたいのでしょうか。それとも、「人間の技術で自然を克服しよう」という思想に染まって、抜け出せなくなっているのでしょうか。
「人間の技術で自然を克服しよう」という思想は、現代の文明社会を広く覆っているようですが、この思想を追求しても薔薇色の未来はないでしょう。今でさえ、自然を管理下に置こうとしてきた現代の産業技術は、あちこちで、ほころび始めています。
目を覚ましてほしいです。
それと、伝統の技術というものは、そもそも国が規準を定めてどうこう指定する性質のものなのかどうか、疑問です。伝統を培ってきたのはその国やその地域の人々です。歴史ある伝統に対し、国が、正しいとか正しくないとか、こうしなさいとか言えるのでしょうか。
伝統構法の場合、建築確認は不要とするのが妥当でしょう。安全のためどうしても規準がいるというなら、ゆるやかな規準にすべきでしょう。
建築基準法それ自体、たび重なる「改正」で滅茶苦茶になっていますから、いったんこれを全廃し、ゼロから作り直すべきでしょう。(伊藤)
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