« 非神話化6・イエス・キリストの処女降誕 | メイン | 非神話化7の2・奇跡をどう考えたらいいのだろう »

非神話化7の1・イエス・キリストの奇跡

前回の処女降誕の話とも共通するが、「イエスの奇跡は史実か否か」といった議論をしても仕方がない。
福音書の著者は初めから、史実を正確に書き残そうとする意図などなかった。彼らは、イエスはキリストであると信じ、ケリュグマのキリストを証しした。

私が知る限り、ブルトマンは著書の中でイエスの奇跡が史実かどうかといった話にあまり言及していないが、その中から読み取るとこうなる。

奇跡は科学的な判断になじまないものである。科学を知ったキリスト者が奇跡を疑うのはキリスト者としての誠実さであり、その誠実さこそキリスト教信仰にふさわしい。奇跡を史実と信じるか否かは信仰上重要な点ではない。奇跡物語が真の出来事か、それとも信仰の創作かといった議論は、信仰上何の利益もないから、そんな議論はしたくないが、それでも聞かれたら、こうした物語は信仰の創作だと考えていると言うしかない。イエスは私たちの救い主キリストであると信じる人にだけ、奇跡は意味を持ったものになる。(『キリストと神話』などによる)

うーむ。
「こうした物語は信仰の創作」としつつ、キリスト教を否定しない護教論の一種だろうか。
遠藤周作は、こうしたブルトマンの見解に影響され、『イエスの生涯』や『キリストの誕生』を書いたのか。

ブルトマンは奇跡の意味と言うが、それって解釈次第でどうにでもなるのではないか。
古代人は奇跡に託して何かを伝えたかったのだろうが、現代の我々に、古代人のメッセージが正確に伝わるのだろうか?

心にいろいろ湧いてくる。
さらに、湧いてくる。

新約聖書の奇跡はすべて創作なのだろうか。
話の素になった何らかの事実はなかったのだろうか。
現代でも奇跡の話を聞くが、どう考えたらいいのだろう

ブルトマンの見解からは逸れてしまうが、私が聞いた話や思うことを少し紹介したい。

1980年代、私が若い頃の話だが、たまたま出会った聖霊派の信者がいろいろ教えてくれた。当時、その人は旧帝大の医学部の学生だった。頭脳明晰な人で、いろいろなことをよく知っていた。
韓国人の牧師パウロ・チョー・ヨンギ師が聖霊派の教会を爆発的に拡大させている。チョー・ヨンギ牧師の祈りで、病気や怪我が治る人もたくさんいる。医学生の自分にも説明できない奇跡が起きている。といった話を聞いた。
1990年代、別の人からルルドの奇跡の話を聞いた。この人は著名な大学の教員で、いいかげんなことを言う人ではない。この先生がフランスのルルドに行ったときの話をうかがった。奇跡としか言いようのない治癒があったし、治った人たちから話も聞いたという(先生はフランス語が達者)。大量の松葉杖が置いてあったという。来るときは、松葉杖をついて来て、帰りはいらなくなって置いて行ったのだという。

どう考えればいいのだろう。
疾病治癒の奇跡は神話的な世界観の中にいた古代人の創作だと言い切れない気がする。
20世紀の奇跡の話をしてくれた一人は旧帝大の医学生、もう一人は難関大学の教員。馬鹿げた話をする人たちではない。

考えられることを挙げてみる。

プラシーボ効果:治ると思うから治る。

連帯感:苦しんできた仲間、きっと治ると信じる仲間、その仲間同士で励まし合い、連帯感で症状が軽減したり治癒したりする。

自然治癒:もともと治る時期がきていた。

医学の効果:牧師に祈ってもらったりルルドに行ったりする前に病院で治療を受けており、その効果が表れてきた。

精神的な理由:プラシーボ効果や連帯感も含まれるが、信念や信仰がその人の気持ちを前向きにし、治癒に向かう。

旅の効果:著名な牧師の教会やルルドなどにはるばる出かけてゆく旅で体を動かし、その運動が回復を促す。また、旅が気分転換となって症状が改善する。

原因不明:どうしてもこれが残る。説明がつかない現象、これが奇跡なのだろう。


キリスト教にとって最も大切なのは奇跡だなんて、私は思っていない。私も、奇跡を史実と信じるか否かは信仰上重要な点ではないと考えている。ルカが福音書や使徒行伝を書いた頃の認識とは違い、現代は「人に出来ないことは神にも出来ない」というのが大原則だと思う。神の御旨は神の慈しみを感じる人に示され、神に従おうとする人の手を通して為されると思う。
だが、聖書の奇跡を全否定することも出来ずにいる。
そして、病気治しなどの奇跡も含めてキリスト教でないかと思ってしまう。

(続く 次回は「杭(十字架)上の死」、その次は「復活」を予定)

(伊藤一滴)


グーグルをお使いの場合、こちらから検索していただくと確実に私の書いたものが表示されます。

ジネント山里記 site:ic-blog.jp

コメント

コメントを投稿

コメントは記事の投稿者が承認するまで表示されません。