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山里の暮らし2

山里に転居して、まず家庭菜園から始め、その数年後稲作も開始しました。
http://yamazato.ic-blog.jp/home/2008/04/post-d945.html

これから農業を始めたいという方もおられるでしょうから、今日はそのあたりのことを少し書きます。

農地法という法律があって、農家でなければ農地を買えないし、法律上は農地を借りることさえできません。意外と知られていませんが、農家の人以外は農地を借りることもできないんです。
新たに農業を始めたくて詳しそうな人に相談すると、「農業の経験はありますか?」と聞かれます。農地を買うことも借りることもできない人がどうやって農業を経験するのか逆に聞きたいです。「農家に生まれた人以外、農業の入り口がない」と言われるのはそのためです。

でも、まったく入り口がないわけではありません。私の場合だと、近所の真壁さんという方(故人、当時80歳)にお願いし、「農業の手伝い」という形で稲作を始めました。手伝いですから、雇用ではないし、違法にはなりません。農業の経験にはなります。

やがて、真壁さんから農地を借りる約束をし、また以前集落にいて今は関東に転居された方から農地を買う約束をして、50アール以上の農地を確保するめどを立てました。地域差もあるようですが、私が住む地域では、新規就農の場合は50アール以上の農地を耕作する義務がありました。今は30アール以上の地域もあるようですし、さらに少なくて済む場合もあるようですから、地元の農業委員会事務局に聞くのが一番確実です。

ちなみに、10アールで約1反(いったん)=300坪ですから、50アールは約5反=1500坪です。
5反あれば、いわゆる五反百姓で、戦前はそれで十分食べていける自作農だったそうです。

必要な書類をそろえて農業委員会に提出し、正式に農家の資格を得ました。また、出資金を出して正式に農協の組合員にもなりました。以前から農協の店(JAアグリ)で農業資材を買ってましたが、それまではJAモグリでしたね。
農家の資格を得て、近所の人たちにその話をしたら、「それはどうも、おめでとうございます」って言われました。近所の人たちも、何て言ったらいいのかわからなかったんでしょうね。
離農者はたくさんいても、新規就農者なんてめったにいないし。

私は自営業だからこれでもわりとスムーズに就農できました。会社や団体の正社員・正職員の場合は、離職しない限り就農が認められないのが原則とのことでした(私の住む自治体ではそうでした)。
農家の生まれでないと、農業を始めるのはちょっとハードルが高いです。農家の生まれだと、会社が許せば正社員のまま就農できるんですけどね。世襲制が強くて、ちょっと、不公平な感じですが。

必要な農機具は、最初は真壁さんからお借りして、その後は離農した人からもらったり中古品を買ったりしながらそろえました。地元の農機具屋さんとも仲良くなりました。整備や修理をお願いしてます。

自給農業をしながら田畑を増やし、作物を出荷できるようになりました。
実はこの出荷も、最初は大変でした。農家にしてみれば出荷は当たり前。新規就農者なんてめったにいないし、初出荷のための手引書みたいなものが何もないんです。
これはもう、近所の人や農協に聞いて、聞いたことをメモしていくしかないですね。作物ごとに組合があったりもするんで、組合に入って、頭を下げて教えてもらうとか。
たいていの人は親切に教えてくれました。「新規就農ですか、そりゃあ、偉いねー。がんばってねー」みたいな感じで。
私が住む山里の人はみな親切だし、ふもとに行っても親切な人が多いですね。まあ、人間ですから、トラブルがゼロではないのですが、大きなトラブルはありませんでした。ほとんどは、話せばわかる田舎の農家です。私も含めて。

今の私は建築の仕事をしながら農業もしている兼業農家です。職業を聞かれたら「兼業農家」と答えています。
妻は、農業を手伝いながら福祉や教育の仕事をしています。
2人とも収入は低いです。
こんな山の中で兼業農家をして、高収入を得られるはずもありません。でも、お米や野菜は自給しているし、ニワトリも20羽程いるし、住宅や車のローンもないし、購入した家なので家賃もかからないし、地方の山の中なので固定資産税はうんと安いし、そもそもお金のかからない暮らしです。低収入でも生活が成り立っています。大自然の恵みの中、近所の人たちと助け合う暮らしです。東京にいた頃や地方都市にいた頃の自然から離れた暮らしや近所づきあいのない暮らしを思うと、ここはまるで別な世界です。

かつて、街に暮らして、比較的収入の高い仕事をしていたときもありました。でも、幸せを感じていませんでした。
今の方がどれだけ幸せかわかりません。収入と幸せは比例しないというのが私の実感です。

どっちがいいんでしょう。高収入で出ていくお金も多くて、多忙で、ストレスも多い暮らしと。静かな山里でつつましく生きるのと。

一度限りの人生です。その人生の多くを、意義を感じない仕事で失いたくありません。多忙に振り回されるのも嫌です。人や自然を傷つけながら収入を得る仕事も、できればしたくないです。
そんなのぜいたくだって言われそうですが。

(続く)

(伊藤一滴)

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