明治13年版「新約全書」一冊本を入手
明治初期の新約聖書(新約全書)なんて、探してもなかなか見つからないし、もし古書店やネットで見つけても、普通は目が飛び出るような価格です。
特に探していたというのではなく、偶然、明治13年版が安い値段で売られているのを見つけ、買いました。日本語訳新約聖書の最初の一冊本と思われる明治13年版です。やはり明治13年版の一冊本が存在しました。これで、明治13年版と明治16年版を比べられるようになりました。
価値がわかる人にはわかるでしょうから、私が死んだら、明治期の聖書はキリスト教系の大学などに寄付してもらうことにします。家族にはそう言ってあります。
日本語訳聖書の刊行はこうなります。
1880(明治13)年、新約聖書の明治元訳・初期版が完成。 二分冊で刊行されたという(ウィキペディアによる)、その年のうちに一冊本も刊行(上の写真)。
1887(明治20)年、旧約聖書も含めた聖書全部の翻訳が完成。
旧新約の合本を出すのに合わせ、新約を改訂。これが新約聖書の明治元訳・後期版。
1917(大正6)年、新約聖書の全面改訳刊行。大正改訳と呼ばれる。
戦前の日本のプロテスタント教会で一般に使われた聖書は、
新約が、明治元訳初期版、明治元訳後期版、大正改訳、この3種類、
旧約は、明治訳のみ、となります。
(他に、細かな訂正や、変体仮名か標準仮名か、といった、いくつかの違うバージョンがあるようです。)
明治20年版「旧約聖書」と大正6年版「新約聖書」の合本が、今も発売されています(日本聖書協会『舊新約聖書 文語訳』、分冊は岩波文庫)。ただし、活字は組み直されており、当時のものではありません。
新約聖書の明治元訳は初期版も後期版も絶版です。
明治13年版と明治16年版はどちらも初期版ですが、両者を比べてみると、
両方とも西洋紙が使われ、洋綴じ、紙の表紙、ハードカバーです。よく似ており、「新約全書」という表題の字体もそっくり。刊行はどちらも北英国聖書会社(=スコットランド聖書協会)。どちらも日本横浜印行。
でも、よく見ると、北英国聖書会社の字体が違ってます。日本横浜印行の「行」の字が、明治16年版だと「にんべん」になっています。縁取りはよく似ているのですが微妙に違います。写真では読みにくいのですが、欄外の「横浜製紙分社新鋳鉛版」の文字の間隔も違います。明治13年版には正誤表がついており、明治16年版では誤植が訂正してあります。
全部読んではいませんが、同じ原版(または紙型)を使ったとみられるページと、版を組み直したページがあります。誤植の多い箇所はページごと組み直したのでしょうか? 微妙な活字のずれや字の変形まで同じページがある一方、組み直したページは字体も違い、変体仮名だった文字が標準仮名になっていたりします。
興味深いです。
まあ、聖書への興味だけでなくて、聖書翻訳や聖書印刷への興味でしょうけれど。
またの機会に続きを書きます。
(伊藤一滴)
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