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レイチェル・ヘルド・エヴァンズ氏の問いが、十代の私と重なる

レイチェル・ヘルド・エヴァンズ著『解き明かされた信仰:すべての解答を知っていた少女が質問をすることを学んだ方法』を読んでます。
(Faith Unraveled: How a Girl Who Knew All the Answers Learned to Ask Questions (English Edition)  Rachel Held Evans 2014 )

きわめて保守的なプロテスタントの環境で育ち、原理主義的な「信仰」に何の疑問も持たなかった一人の少女(著者)がいました。小さいときから模範的な原理主義者の思考と答え方を覚え、うまく答える子でした。まさに、「すべての解答を知っていた少女」でした(a Girl Who Knew All the Answers)。やがて成長する中で、彼女は歴史を学び、世界の現実を学び、自分の「信仰」とのずれを感じるようになりました。そして・・・・。
彼女の思いがあふれるようにほとばしると、1つの文がとても長くなって、なかなかピリオドに行きつきません。

日本語訳がないので原著(英文)で読んでます。
私は英語が母語じゃないんだから・・・・、激しくほとばしる文章を追うのが大変です。

やっと、半分くらいまで読みました。
私の語学力では大変なのですが、興味深い内容なので、どんどん引き込まれます。

興味のある方は、日本のアマゾンでも買えますから、英語の原題で検索してみてください。(日本語の題名や副題は私の勝手な訳なんで、検索するときは英語で。)


エヴァンズ氏は問います。

学生のとき、エヴァンズ氏は学友とテレビで恐ろしい映像を見たのです。タリバーン支配下のアフガニスタンで、公開処刑された女性の映像でした。タリバーンは見せしめのために公開処刑をおこなっていました。この女性は十代で結婚させられ、夫から暴力を受けていたようです。夫を殺した罪で公開処刑になったのです。さすがに処刑の瞬間はカットされていましたが、そのあと遺体が映し出され、その足はテニスシューズ(のような靴)をはいていました。彼女はイスラム教徒でした。だから天国には行けず、地獄に行くのでしょうか。たまたまイスラム教徒の家に生まれ、キリスト教に出会うチャンスなどまったくなかったのに。そのことに、本人には何の落ち度もないはずなのに。地上で処刑され、死んでからも地獄で永遠に苦しむのでしょうか。神は、そのようなことをお許しになるのでしょうか。

処刑された女性のことがエヴァンズ氏の頭から離れません。テニスシューズの彼女のことが・・・・。

エヴァンズ氏は、自分がキリスト教徒なのは、たまたま「宇宙宝くじ」に当たったようなものだ、と言います。
「宇宙宝くじ」
それに偶然当たった人だけが天国に行けて、あとの人はみんな地獄?


私は中高生の頃、極端なキリスト教原理主義者(カルトに近い人たち)の「教会」で話を聞いていました。
そういう人たちの集まりだと知らずに、キリスト教の教会だと思って行っていたのです。
この「教会」はおかしい、普通じゃないと、すぐには気づきませんでした。だって、建物は普通のキリスト教会そっくりだし、看板に「〇〇〇キリスト教会」って書いてあるし、しかも、教会に行ったのはそこが初めてで、ほかと比較のしようもありませんでした。

詐欺師が見るからに詐欺師のような姿で近寄って来ないように、多くの場合、カルトは見るからにカルトっぽくはありません。

何度か行って話を聞くうち、神の審きや救いについて考えるようになりました。入信したのではありませんが、もし神様がおられ、この「教会」の「牧師先生」や「信者さん」の言うことが正しいなら、と想像してみました。私は十代で、未熟でした。「もしかしたら正しいのかもしれない」という思いが心のどこかにあったのでしょう。

その「教会」の話だと、こうなります。

人はみなアダムとエバの子孫であるから原罪を持つ罪びとであり、地獄で永遠に焼かれることになる。ただし、イエス・キリストは十字架の死によって罪を贖ってくださったのだから、イエスを信じる人だけは救われて天国に行ける。それ以外の人はみな地獄に行く。

この話が本当なら、と、十代の私は思いました。ほとんどの人は地獄で永遠に焼かれる。
うちの父も母も地獄。近所のやさしいおばあちゃんも地獄。学校の同級生も先生も地獄。〇〇ちゃんはお寺の子だから当然地獄。今、この「教会」に来る途中すれ違った人たちも、キリスト教と関係ないからみんな地獄。
「信仰」の道に進まなければ自分自身も地獄。

想像すると、恐ろしくなりました。
原理主義者やカルトが心に抱く恐怖がよくわかります。

当時の私の疑問は、エヴァンズ氏の疑問と重なります。
本当に、エヴァンズ氏が書いていることと、私が思っていたこととが重なるのです。


ピサロがラテンアメリカを征服したとき、多くの先住民が殺されています。キリスト教に出会うことなく殺された先住民はみな地獄行きになったのでしょうか。(ピサロの軍はキリスト教徒だから天国に行くのかって思いましたよ、エヴァンズ氏はそこまで書いてませんが。)

人類の歴史の中で、何度も大虐殺がありました。虐殺された人たちはキリスト教徒以外はみな永遠の地獄行きなのでしょうか。

『アンネの日記』を読んで思いました。アンネはユダヤ教徒だから、天国には行けず、地獄行きになったのでしょうか。ナチスに殺されたユダヤ人はみんな地獄行き?(ナチスの将兵の多くはキリスト教徒だから天国に行くのかって思いましたよ、それもエヴァンズ氏は書いてませんが。)

上記のような犠牲者たちはキリスト教の考えでは決して救われず、みな地獄行きなのかと、十代の私は想像していました。

以下はエヴァンズ氏の本にはありませんが、十代の私はさらに次のようなことも考えていました。

アメリカに連行された黒人奴隷はアメリカでキリスト教に出会って「救われ」た。奴隷狩りにあわずにそのままアフリカにいた黒人はキリスト教に出会うことがなく地獄行きになった。だから、奴隷にされた人のほうがよかった、ということなのか。

中学校の図書室で「はだしのゲン」という漫画を読んだ。原爆投下でずいぶんひどい殺され方をした人が大勢いて衝撃的だった。後遺症に苦しみながら放射能障害で死んでいった人たちもたくさんいた。あの人たちのほとんどはクリスチャンではないから地獄に行き? 原爆で焼かれたり放射能を浴びたりして殺されて、そのあと永遠の地獄で永遠に焼かれる?

もっともっと、考えていました。

旧日本軍から殺害された中国人や東南アジア諸国民も多くは地獄行き?
早乙女勝元『東京大空襲』に出てくるような空襲犠牲者たちも地獄行き?
旧満洲で殺害された人たちや敗戦後の逃避行の中で死んでいった人たちは幼い子も含めて地獄行き?
スターリン支配下のソビエトで、まったくの冤罪なのに反革命分子とされて処刑された人たちも地獄行き?
旧南ベトナム政府軍から殺害されたベトコン兵士や北の協力者も、共産主義者やそのシンパだから地獄行き? ずいぶんひどい拷問もあったようだけれど、拷問した側はキリスト教徒だから天国行き?

いろいろ読んだり調べたりすると、数々の虐殺や無辜の死が出てきます。

人はすべて原罪を持つ身なのだから、本当の無垢ではない?
純粋な無辜ではない?
どんないい人も、みんな原罪を持つ罪びと?

でも、それが永遠の地獄で永遠に焼かれるほどの大罪?

ガンジーも宮沢賢治もキリスト教徒でないから地獄行き?
生まれたばかりの子も、精神薄弱者(当時の表現)も、信仰がないから地獄行き?

??????

そんなふうに神は、キリスト教の信者か非信者か、白黒はっきり分けるんだろうか。碁石を白と黒に分けるみたいに分けるんだろうか。間に灰色はないのか。少しでも灰色がかった所があれば黒と見なされるのか。
ほんの少しの差で天国に行けた人は永遠の至福で、ごくわずかな差で行けなかった人は永遠に焼かれるのか。

それで、「神は愛です」って?

??????

『解き明かされた信仰』を読みながら、私は、十代の自分を思い出しています。

(伊藤一滴)

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