やはり、バランスのとれた暮らしが必要では
現代が史上最悪の時代というわけでもないのでしょうが、現状が悪いと、過去がよく見えて、ついうらやましくなるときがあります。
子どもたちと「となりのトトロ」を観ていたら、昭和30年代の日本がすごく良く思えました。
私たち一家は山里の古民家に住んでいるので、自然環境や、近隣の人たちとの助け合いという点ではまだいいのですが、小学生の子どもがいる家なんて集落の中でうちだけ。友だち同士で遊ばせるためには親が車で送迎しないといけません。かつて農村部にも子どもがたくさんいて、子どもたちの社会があったわけで、そんな時代がちょっとうらやましいです。
今の自分にないものや失われたものって、すごく良く見えます。実際にそこに生きた人は、それはそれで大変だったのでしょうけれど。
「伊藤さんの古民家暮らしがうらやましい」と、いろいろな人から言われます。
でも、古民家は暗く、冬寒く、建付けが悪く、階段は急、トイレは不便、火を焚けば煙いし煤ける、といった事実もあります。「古民家をオール電化に改造」なんて話もありますから、現代の技術でいろいろな改善も可能ですが、あまり改善しすぎると、民家としての味わいを損ねてしまいそうです。メーカーの工業製品を多用して古民家に組み込んだら、民家が民家でなくなりそうです。だって民家って、そもそも、その地域で手に入る材を使って造る庶民の家でしたから。
その地域では作れないもの、遠くの工場で作って運んでくる素材・部品・機器を使い、何かあっても自分たちで直せなくてメーカーの人に来てもらわないといけない住宅、それが現代の主流になってしまいましたが、そんなふうにしてしまうと、本来の民家のあり方からどんどん離れていきそうです。
私、自宅を日曜大工で直してます。木の部分は主に地元の杉材で直します。壁は、自分で土を練って補修しました。プロ用の道具を少しずつそろえ、使い方や手入れを職人や引退した元職人に聞きながらやってます。
住む人が、どこまでを好ましく感じるのか、というのもあるでしょうが、「虫食いの穴も節穴も好ましく感じる」と言っていた人がいました。
長く人工的なものに囲まれて暮らしていると、それが正直な気持ちなのでしょう。
自然素材といっても単一の木材だけでなくて、土(土間や土壁)があり、草木由来のもの(畳や障子、ふすまなど)があったりして、そうした組み合わせでバランスがとれるようです。
人工的なものに疲れるし、単一のものにも疲れる。どうも、人間にはバランスのとれた暮らしが必要みたいです。
自然は、完全なものとして完成しており、バランスがとれています。
人は長く自然と共に生きてきました。それが当たり前で、体も、思考も、そうなっていました。
それが、短い時間で変わり過ぎたのです。
現代の大きな問題の一つは、人間が自然から離れて過ぎてしまったこと、でしょうか。(伊藤)
コメント