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伝統民家についての覚え書き・耐震性

大地震の時、土壁は壊れることによって地震エネルギーを吸収し、梁や柱や床を守る。壁と小舞が壊れることで地震の力を殺ぐ。土壁は後から直すことができる。
以前、某ハウスメーカーが、同じ力を加えたときに土壁は壊れるが当社の壁は壊れないという宣伝をしていた。考えがあべこべだ。

霞ヶ関ビル(武藤清氏の構造設計)の場合、大地震時、コンクリートの壁が壊れるよう、わざと作ってある。壁が壊れることで地震エネルギーを吸収させ、構造体を守るためである。武藤氏が民家の土壁を参考にしたのかどうかは未確認。両者の類似性について論じたものは、私は未見。

玉石の上に土台や柱を置いただけの「石場建て」の民家の場合、巨大地震の時、建物が石の上を滑ったり浮き上がったりすることでショックを逃がす。これは一種の免振構造ではないか。
土台と基礎を緊結すべきか否か、戦前から論争があった(杉山英男『地震と木造建築』[丸善])。
戦後、緊結を主張する派が勝って、1950年の建築基準法の規定となった。基準法により一般の木造建築にコンクリートの基礎を用いてアンカーボルトで緊結することがが義務化され、茶室などの例外を除き「石場建て」は不可となった。この時以降、日本の木造建築は伝統的な免振構造を捨てた。

伝統民家の仕口は、剛接合ではないからラーメンを形成しない。かと言ってピン接合でもない。日本の伝統にブレースはないからトラスを形成しない。柱も通し貫によって結ばれ、格子のカゴ状の粘り強い構造体を形成する。あらゆる仕口は、ある程度剛で、ある程度ピンとなり、一種のバネ、一種のダンパーとして働く、と考えられる。ただし、形状や大工の力量によってもどの程度バネが効くか違ってくるだろうから、そもそも、構造解析になじみにくい。モデル化して解析しても、そうとうの誤差が出るだろう。

建築の構造学を学び始めたばかりの頃、私は、日本の民家の力学が理解できなかった。節点は剛ではないし、トラス構造でもない。これは「不安定構造」ではないのかと思えた。「不安定構造」がなぜ壊れないのか不思議だった。今は、上記のように考えれば説明がつく。
学問というものが、いかに西洋直輸入なものか思い知った。

木造建築の構造学の権威であった杉山英男氏は、晩年、転向した。伝統構法に否定的になり、プレファブ建築やツーバイフォーを高く評価するようなことを言い出した。氏のそれまでの研究は何だったのか。
晩年の杉山氏の見解は、プレファブやツーバイフォーの経年劣化を甘く考え、伝統構法の経年劣化に厳しいように思われる。プレファブと伝統構法で同じ間取りの木造住宅を造り、20~30年後くらいに強度試験でもしないと答えは出ないのではないか。

地震に対し、建築は、「柔」でしのぐという考えと、「強度」で立ち向かうという考えがある。法律は、木造住宅に「強度」で立ち向かうことを要求し、だんだんその要求を強めている。

江戸時代や明治初期の民家の中にも、風雨や地震に耐えて今も現役の住宅として使われているものがある。コンクリートの基礎、筋交い、ボルトナット類を一切使わない木造住宅で、十分耐震性・免振性を満たすことが出来ると思われるが、もう日本では建てることが出来ないのか。日本に、本来の日本建築はもう建てられないのか。(伊藤)

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