木のこと
木造建築どうこう以前の問題として思うのですが、日本の林業は、もう、業として成り立ちにくい状況です。大量の外材が輸入され、新建材も多用される今、国産杉などの立ち木価格はタダみたいなものです。
昨年、家の周りの杉の木を少し切りました。最初自分で切りましたが、難しい場所にある木は人を頼んで切ってもらいました。
個人の家の木を伐採してくれる人をやっと探しました。私は建築士なので、大工さんや製材所の人たちとも面識があり、木を切る人を探すことも出来ましたが、最近は小さな仕事をしてくれる林業の職人がなかなか見つからないんだそうです。わずかな木を切る作業など、わりに合わない仕事になっているんです。
切った木を売ればいくらかになるかと思ったら、手間賃にもならないこともわかりました。
聞いた話だと、今、樹齢50年くらいの杉の立ち木価格は千数百円(!)だそうです。これ、末端価格は7~8万円になるんでしょうけれど、せめてその1割でも立ち木の提供者の手に渡ればいいのにと思ってしまいます。
昔のように木がそれなりの値段で取り引きされるなら、私は木を売っただけで金持ちになれたでしょう。だって、一般の人の月収が数千円の時代に、よい杉の木は1本1万円、ものによっては何万円もしたそうですから。
いくら今はタダみたいなものでも、せっかく切った木だし、もったいないんでその木を使って物置小屋を建てることにしました。製材所に運んで製材してもらったら、伐採費と運送費、製材費で、製材してある木材を買うくらいの値段になりました。値段を考えれば何の特にもなりません。丸太を渡しただけ損みたいなものです。せいぜい、出所不明の木材ではなく、自分の家のそばに立っていた木を使ったという記念になるくらいです。
損得勘定では、物置小屋1軒分くらいの木を渡しても何の得にもならないのです。ユニック車(クレーン付のトラック)が入れない場所や、量が少ない場合は、木を切ったらあとは放置して腐らせるのが経済的には一番得みたいです。
そんな状況で、日本の木造建築はこの先どこへ行くのでしょう。
大工職人も先細りですけれど、林業の衰退で、林業家向けの道具も衰退してきたといいます。いい道具が手に入らないのだそうです。有能な山師たちもそうですが、鍛冶屋などの道具作りの名人たちも高齢化し、後継者が育ちにくい状況なのです。
近くに人工林があるのにそれを放置し、間伐もせずに木をモヤシみたいにしておきながら、はるばる外国から運ばれてきた木が使われます。放置された山は荒れ果て、まるで怨念のように花粉をまき散らし、花粉は都会まで飛んでゆきます。おかしいんですよ。私は一介の建築士で、林業や製材の仕事をしているわけではありませんが、どう考えたっておかしいと思います。(伊藤)
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