人はなぜ毒親になってしまうのだろう
人はなぜ毒親になってしまうのだろうと、毒親になる原因について考えているときに出会ったのがこれです。
水島広子『「毒親」の正体 精神科医の診察室から』(新潮新書) ※1
著者の水島広子氏は精神科医です。
著者は、「毒親を作る精神医学的事情」として4つに整理しています。
事情1 発達障害タイプ(ASDとADHD)
事情2 不安定な愛着スタイル
事情3 うつ病などの臨床的疾患
事情4 DVなどの環境問題
著者によれば、臨床の現場において一番多いのは事情1の「発達障害」だそうです。
事情2の「不安定な愛着スタイル」というのは、親自身が愛情不足で育っており、子育てに悪影響を及ぼす例だそうです。
上の4つは、それこそ順列組み合わせのように重複もするのでしょう。
私のこれまでの経験から考えても(※2)、発達障害を持つ人の場合だと、今この状況で相手にこうしたりこう言ったりすれば相手はどんな気持ちになるのかという想像がうまく働かず、場の状況にそぐわないことをしたり言ったりすることがあります。非難されるとパニックになって、1つのことで頭が一杯になり、大声をあげたり物を壊したりする人もいます。
世にはさまざまな障害を持ちながら、誠実に生きている方々が多数おられます。普段はとても真面目であったり、ある分野に抜群の能力を発揮したりする方もおられます。発達障害を持つから駄目だというのではありません。一概にどうこうは言えません。ただ、発達障害は、肢体の障害とは違って外見ではわかりませんから、これまで発達障害があると気づいてもらえず、適切なケアを受けられなかった人も相当数いることでしょう。発達障害を持ちながらまわりの理解を得られずに生きてきた人の中に、毒親化する人もいる、ということなのでしょう。
上の4つの事情はどれも、毒親になってしまった本人の側の落ち度とは言えませんし、本人に悪意もないのでしょう。
事情1は、生まれながら持つ障害によるのであり、そう生まれたのは本人の落ち度ではありません。ASDやADHDの人がみな毒親になるわけではありませんから、毒親化は、発達障害者が無理解にさらされ不適切な扱いを受け続けた結果なのかもしれません。
事情2は、毒親となったその人自身が愛情不足で育っていて、その人も被害者です。
事情3は病気ですし、事情4だって、その人は被害者です。
上記の事情は、どれも、毒親になったその人の責任とは言えません。
本人が悪くないのに毒親になってしまい、毒親は子どもに日常的に悪影響を与え続け、しかも、被害者の話によれば、被害は深刻で長期間に及んでいます。
落ち度も悪意もない親なのに、改まらない親の場合は、子どもは親から離れる以外に被害から逃れるすべがないというのは、どうも腑に落ちないと言うか、やりきれない思いになるのですが、やむを得ないのでしょう。被害を受けている子が親から離れても生活が成り立つのであれば。
子が未成年の場合は、どうしたらよいのでしょう。
身体的な虐待を受けているならともかく、たとえば小中学生が「うちの親は毒親です」と警察署に逃げ込んで、助けてもらえるのでしょうか。その子には傷もなく、体格も血色も良く、身なりもきれいで、親が虐待を否定したら。「すみませんねえ、うちの子ったら、ちょっと叱っただけでおまわりさんにご迷惑をかけてしまって」みたいな、外づらの良い親だったら。けれども本当は深刻な毒親だったら。
どうすることが最もよいのでしょう。
たとえ子が成人していたとしても、親から離れた後、どうすればよいのでしょう。毒親に育てられたその人は社会的な常識を大きく欠いている場合もあるのです。そのため、たとえどこかに勤務しても、職場でとんちんかんな対応をしてしまうかもしれません。これも、宗教の原理主義者やカルトに育てられた子と似ています。その人はどこでどうやって社会の常識を身に付け、どうやって暮らしていったらいいのでしょう。
今のところ、答えが見えません。皆が皆、理解者に恵まれるわけでもないですし・・・・。
毒親の被害者だけでなく、毒親も気の毒に思えるのですが、どうすれば親に目を覚ましてもらえるのか、それも今の私にはわかりません。
(原理主義者やカルトにも目を覚ましてもらいたいのですが、善意で彼らの矛盾点を指摘しても、真っ赤になって怒りをぶつけてくるだけです。似ています。)
専門家でないと、対応は難しいのでしょう。おそらく、専門家でも、難しいだろうと思います。
(伊藤一滴)
※1:私は新潮社の本は基本的に買わないことにしているので、古書です。古書であれば、買っても出版社の利益になりませんから。新品を買わない理由は、新潮社の雑誌の記事にあまりにも酷いものが多数あり、私の許容限度を越えているからです。抗議の不買です。売れればいいと雑誌に下劣な記事を書き続ければ、自社の良書も売れなくなることを出版社は知ったほうがいいと思います。
※2:伊藤一滴は社会福祉学部出身です。これまで、さまざまな障害を持つ方々と接してきました。
コメント