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「シカゴ声明」批判

福音派の保守勢力が1978年に出した「シカゴ声明」という、聖書の無誤性の主張があります。正式には「聖書の無誤性に関するシカゴ声明(The Chicago Statement on Biblical Inerrancy)」という声明です。
この声明によれば、聖書は原典においては無誤なのだそうです。

すべての福音派が賛成しているわけではありません。この声明に対し、福音派の内部からも疑問や批判の声が上がっています。

私自身は、この、「原典においては無誤」というのは無理な主張であり、この声明は出されたときからすでに破綻していると考えています。


無誤の聖書原典がどこにあるのか

ありません。
人間の頭の中にしかありません。
それがどうして無誤なのですか。
写本があるのだから、どんどん遡っていけば最初は原本だったはずだ、ということなのでしょうが、聖書が正典と認められた時に、すでに誰も原本を持っていませんでした。
多くの写本が伝えられていますが、写本間には多数の相違点があります。たいして意味が変わらない相違もありますが、中には重大な相違もあります。今日私たちが手にしている聖書は、学者たちが、長い年月をかけて本文(ほんもん)校訂を行なったものです。

神学、聖書学、説教まで、その時代の聖書の校訂本や翻訳に基づいています。誰も持っていない原典に基づいているのではありません。

当然、福音派の神学だって、その時代の聖書の校訂本とその訳に基づいています。

それに、聖書に収められた文書は、原著者による何度かの推敲があったのかもしれません。後の人が推敲したかもしれません。いったい何度目の推敲版が無誤の原典なのでしょう。原著者による最終版ですか。最終版に推敲漏れによるミスなどがあったら、ミスも含めて無誤なのですか。「原典」が無誤なら、後の人がミスを訂正した写本は誤謬になるのですか。無誤っていったい何ですか。

写本には後代の書き加えもみられます。でも、いつから「後代」なのでしょう。原著者が晩年に書き加えたとしたら、それも後代の書き加えになるのでしょうか。

厳密な原典というものは存在しないのです。


人間の言語が無誤になるのか

聖書は人間の言語で書かれました。旧約はヘブライ語で、新約はギリシャ語で書かれました。
言語は、人間の文化の中で発生し、地域によって、また時代の中で変化したものです。
言葉は変化してゆきます。変化してゆくものがどうして無誤になるのでしょう。
それとも、ヘブライ語とギリシャ語だけは特別で、聖書が書かれた瞬間に無誤の言語になったのでしょうか。

イエス自身はアラム語を使っていたと考えられますから、新約聖書に記されたイエスの言葉が、本当にイエスに由来するとしても、それはアラム語からギリシャ語に訳されたイエスの言葉です。
無誤であるという原典はイエスの口から出たアラム語ですか、それとも新約聖書に収められたギリシャ語訳ですか。

言語は場所により時代により変化します。同じ単語が使われていても、場所や時代によって意味が微妙に違ったり、かなり違ったりします。聖書に使われている単語の中には、書かれた時の正確なニュアンスを読み取ることが困難なものもあります。言語は、そもそも、絶対的なものになりえないのです。言語が無誤でないのに、聖書の原典に限って言語で書かれたものが無誤というのは成り立たない話です。

聖書の無誤性を強く主張する人の中に、言語の相対性や、その単語が持つその状況での意味などへの配慮を欠く人が多いように感じられます。(たとえば、新約聖書に出てくる「聖書」という言葉に新約聖書まで含めたり、「哲学」という言葉に近現代の哲学まで含めたり。その時代のその言葉がカバーする範囲を明らかに逸脱する主張をする人たちがいます。聖書に出てくる単語を、本来その単語が持っていない意味で使うのですから、聖書改変の一種です。)

さらに言えば、無誤であるという声明が、どうして英語で出されるのですか。英語も無誤の言語ですか。


日本語版ウィキペディアの歪み

日本語版ウィキペディアのキリスト教関係の用語、特に福音派の用語は、福音派の中でも保守的な立場から書かれているようで、中立的ではありません。
シカゴ声明に対しては福音派内部からも批判の声が上がっているのに(英語版のウィキペディアにはちゃんとそのことも書いてあるのに)、日本語版ウイキペディアの「聖書の無誤性に関するシカゴ声明」の箇所は内部の批判の声を完全に無視しています(2019年4月3日現在)。しかも、統一協会がシカゴ声明を批判しているとして、「シカゴ声明を批判するのは異端的な団体だ」と思うよう、読者を誘導しているようにさえ感じられます。

(伊藤一滴)

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