内村鑑三『後世への最大遺物』を読む
私が住む山形県の山里は、一年のうち一番厳しい季節になりました。
外は吹雪。
薪ストーブを焚いて、内村鑑三『後世への最大遺物』を読んでいます。これまでも何度か読んだので、読み返しです。
講演の速記録ですから、人の前で話した言葉であり、難しい文体ではありませんが、今の人にはあまりなじみがない言葉も出てきます。
「この講師が嚆矢」なんていう冗談は、明治27年の聴衆は爆笑したようですが、今の人にわかるんだろうかと思います。
注:嚆矢(こうし)、「最初」という意味。もともとは戦の始まりを示す鏑矢(かぶらや)のこと。
初めの方に、山陽の漢詩が出てきます。聴衆が知っていることを前提にしているようですが、私は、この漢詩も山陽の名も、『後世への最大遺物』で初めて知りました。たぶん、今は多くの人がそうだろうと思います。
調べました。
山陽というのは、江戸時代の文人、頼山陽(らい・さんよう)(1781~1832)です。彼が13歳(あるいは14歳になったばかり)のとき、後の人が「述懐」(じゅつかい)と呼んだ次の漢詩を作ったというのです。
十有三春秋(じゅうゆうさん しゅんじゅう)
逝者已如水(ゆくものは すでに みずのごとし)
天地無始終(てんち しじゅうなく)
人生有生死(じんせい せいしあり)
安得類古人(いずくんぞ こじんに るいして)
千載列青史(せんざい せいしに れっするをえん)
意訳
これまで十三回の春と秋を過ごしてきた。
過ぎゆくものは水の流れのようだ。
天地には始めも終わりもないが、
人間には生と死がある。
なんとかして、いにしえの人のように、
千年後の歴史書に自分の名をつらねたい。
言葉の意味
十有三:十と三。十三年。
春秋:一年。
逝者:過ぎゆくもの。死んだ人ともとれるが、ここではおそらく歳月。
人生:人間の一生。
安得:なんとかして~
類:類して、または、のっとって。
千載:千歳、千年。
青史:正式に認められた歴史。正史。
調べたんで、こうやって意訳や意味を言えますが、最初にこの漢詩を読んだときは、特に後ろの2行は意味不明でした。
安得類古人???
なんだ、それ? 安得類って、どういう類だ。アンデスに類する?まさか。アンデス類の古代人、なわけないよな~。
すみません。私の漢文の知識不足です。安得は、「なんとかして~」という意味です。(ちなみに、アンデスは安第斯と書くそうです。)
千載列青史
これもよくわからなかったのですが、千載は千載一遇の千載で、千年のこと。青史は、紙が実用化される前に青竹に書かれた歴史に由来し、正式に認められた歴史、公的な歴史書のことだそうです。
「千年後の歴史書に自分の名をつらねたい」って、三陽は、すごいことを言ってるんです。13歳か14歳くらいで。
続く
(一滴)
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