患者になりました
たいしたことではないので、ご心配はなさらないでください。
普段、私はあまりお酒など飲まないのですが、その日おいしい日本酒をいただいて、少し飲みました。1合と少し(200ml強)くらいです。とてもおいしい純米酒だったので、つい飲んでしまったのす。
それからお風呂に入り、上がって脱衣所から出たとき、たまたまそばに置いてあって長男の荷物の箱につまづいてしまい、おっとっと、となりました。古民家暮らしなので、家には土間があります。土間に転落しそうになって、体を逆にひねったのが悪かったのだと思うのですが、ガラス戸に頭から突っ込んでしまいました。「しまった」と思った時にはもう遅いのです。ガラス戸に向かってゆく自分の体を止められないんです。ガッシャーンとガラスが砕け、私は倒れました。
生ぬるいものが、頭から顔に流れてくるのがわかります。手のひらで拭いたら真っ赤でした。「ああ、しまった」と思いながら風呂場に戻り、お湯を頭にかけたらお湯に血が混じって風呂場の床も赤くなり、「こりゃあ病院に行かないと駄目だ」と思いました。
ひとまずタオルで頭を覆い、別のタオルで体を拭いて服を着て、時計を見たら午後11時過ぎ。その日、長男は不在で、妻と娘はもう寝てました。まず病院に電話しなくちゃと思いましたが、その前に妻に言っておいた方がいいだろうと思い、声をかけました。
「ママ、起きて。ごめん、ケガしちゃった」
「どうしたの?」
「お風呂から出て、転んで、ガラスで頭を切っちゃった」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないみたいだ。今から病院に電話する」
妻はすぐ布団から出てきて灯りをつけ、血が流れた私の顔を見て、びっくりして、いろいろ言うんですが、そんなことより病院に電話するのが先なので、妻をさえぎって病院に電話しました。
最初、病院の警備員さんみたいな人が電話に出て、そのあと看護師さんが出たので状況を言いました。
「ついさっき、お風呂から出て、転んでしまって、ガラス戸で頭を切りました」
「ご本人ですか」
「はい」
「倒れたのですか」
「荷物につまづいて転びました」
「意識はありますか」
(意識があるから本人が電話してるのに、と思いながら)「意識はしっかりしています」
「頭を強く打ちましたか」
「いえ、打ったというより切ったんです」
「傷は深いですか」
「自分では見えない場所で、傷の深さはよくわかりませんが、痛いし、血が流れています」
「わかりました。落ち着いてください。先生に連絡しますので、電話を切らずにお待ちください」・・・・「あっ、もしもし。こちらで受診できますので、保険証を持ってすぐにいらしてください」
「はい、わかりました」
「どなたかに運転してもらいますか」
「自分で運転できそうですが・・・・」
と言いながら、自分がお酒を飲んでいたことを思い出しました。横から妻が「だめよ、私が運転する」と言います。
「あのう、家内の車でそちらに行きます」
「その方がいいですね。十分気を付けていらしてください」
というようなわけで、私は病院に運ばれました。
寝ていた妻に、夜の山道を運転して下ってもらうのは申し訳ないのですが、しかたないです。最初は血を見ていろいろ言っていた妻ですが、私の身を案じ、非難めいたことをまったく言わずに私を病院に運んでくれました。頭に巻いたタオルの上にさらにタオルを巻いて、血が流れ落ちないようにして病院に行きました。
幸い深い傷ではなかったのですが、頭の皮膚が5箇所切れていて、そのうち2箇所にガラス片が刺さっていました。当直の医師がガラス片を抜いてくれて、5箇所の傷を全部処置してくれました。やはり、病院に来てよかった。
入院するほどではなかったので帰されました。その日は、布団に入っても、頭を動かすと痛くて、寝返りを打てなくて不自由でした。
というわけで、患者になりました。頭をぐるぐる巻きにされ、桃などを包むネットを大っきくしたようなものを被せられて、見るからに患者です。
仕事もしてるし、運転もできますが、目立つ場所のケガなので、大ケガみたいに見えます。「どうしたの?大丈夫?」と、人に会うたび声をかけられます。
こうして自分が患者になって、通院していると、さまざまな病気やケガの人、特に高齢者が目につきます。以前父が入院した大きな病院と違い、田舎の小さな病院なので、なんだか、なごやかな雰囲気です。患者同士がいたわり合うような感じで、田舎はいいなあと思います。
事故は一瞬、治療は長い。
まあ、これも、経験です。
(伊藤一滴)
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