« 稲作開始 | メイン | 田んぼって »

お米の赤ちゃん

種蒔き桜と言いますが、本当に山里のソメイヨシノが見ごろになった4月20日に水稲の種を蒔きました。
タネモミはただ蒔くだけでなく、事前に塩選(えんせん)、消毒、浸種(しんしゅ)、催芽(さいが)といった作業が必要です(注)。催芽をお願いした近所の農家に苗箱を持って行って、手伝ってもらって種蒔きの作業をしました。種蒔きが済んだ苗箱は自宅に運び、庭に作った苗床に並べ、「有孔ポリ」を被せ、小さいビニールハウスのようなカマボコ型のトンネルで被いました。こうした作業を1日で全部やったので、ちょっと疲れましたが、充実感がありました。

苗箱は地主さんからの借り物で、有孔ポリはもらい物、あとは農協や農業資材店に行って買って来ました。種蒔き用の培土(ばいど)やトンネル支柱などは安価ですが、トンネルの上に被せる農業用ポリシートは百メートル単位でしか売っておらず、1巻き4千5百円もしました。幅が2メートル以上あり、長さが百メートル。台所のラップを巨大にしたようなイメージのものです。重いし、軽トラの荷台からはみ出るし、高齢の農家がこのシートを使うのはさぞ大変だろうと思いました。

さて、山桜や八重桜が見ごろになった4月29日、べたがけしていた有孔ポリをそっとはがしてみました。そしたら、小指の半分くらいの長さのかわいい芽が出そろっているのです。芽の先端に水滴がついてキラキラ光っています。本当に、かわいいです。これまで、なにげなく食べてきたお米はこうしてスタートするのです。

子どもたちに稚苗を見せました。
「これが稲になってお米が実るんだよ。赤ちゃんだよ」
と教えました。
娘は、
「お米の赤ちゃん、お米の赤ちゃん」
と言って喜んでいます。お兄ちゃんたちも寄ってきて、興味深そうにトンネルの中をのぞきこんでいます。
私は子どもたちに、
「まだ赤ちゃんだからね。さわらないでそーとしておいてね」
と言いました。

本当は自然農法が理想だと思います。川口由一さんたちの『自然農』[晩成書房]に書いてあるような、草や虫を敵としない稲作をやってみたいものです。でも、私はまったくの素人だし、お願いして使わせてもらう水田でいきなり自然農法を始めるわけにもいかないので、まずは近所の農家と同じようにやってみます。近所の人たちも自家用米は低農薬で栽培しているようなので、私も同じように低農薬でやってみます。
私自身は、害虫とされる虫が発生しても別にかまわないのですが、近くの田んぼで出荷用の米を栽培している人たちに虫害の迷惑をかけるといけないので、迷惑をかけない程度の農薬使用はやむを得ないと思うのです。

商品としての農作物は見た目が優先されるので、農薬使用が当然の前提になっています。消費者が選ぶ基準は栄養や安全性ではなく、見た目と値段です。見た目のよいものを売れる値段で供給するためには、合成の農薬や化学肥料をはじめ種々の科学的手段を使うしかないのです。農家は、仕事ですから、売れないものを作るわけにはいきません。農薬の危険や害を知りながら、自分自身、それを身に浴びて、消費者の要求に応えるしかないのです。有機認定制度もありますが、手続きがめんどうで小規模農家には負担が大きいですし、一切妥協しない有機農作物は値段が高くなりすぎます。手ごろな値段で「有機農作物」と称して売っている作物は、何か妥協しているか、ごまかしているかでしょう。

日本の食をめぐる現状が、いかに蝕まれているかを知る私は、矛盾を感じながら、それでも、生まれて初めて農薬を買いました。そして、「ごめんね」と、お米の赤ちゃんたちや虫たちに詫びました。(伊藤)

(注)
3月22~23日に塩選と消毒。大きなバケツに塩を溶かし、生卵が浮いて十円玉くらい顔を出す濃さにする。タネモミ5キロを入れ、沈んだものだけを使用。
自宅の浴槽のお湯を60度まで上げ、網袋に入れたタネモミを沈めて5分間消毒。薬剤を使用しない温湯(おんとう)消毒。消毒後に水洗い。
その後、大きなバケツに入れて水道水で浸種。水は毎日換えた。
4月15日まで浸種し、催芽。これも自宅の浴槽でやろうと思ったが、子どもにいたずらされる恐れもあり、また、風呂場がモミ臭くなるというので(私はかまわないけれど、妻や子どもたちが何と言うか)、催芽機を持っている近所の農家にお願いしてやっていただいた。ちなみに浴槽でやる場合、お湯は30度弱で、1日~3日という。

コメント

コメントを投稿

コメントは記事の投稿者が承認するまで表示されません。