寓話・アリとキリギリス(ジネント山里版)
ある夏の日のことでした。太陽がギラギラ照りつける中、アリの運送屋たちは一生懸命荷物を運んでおりました。木陰で涼みながらバイオリンを弾いていたキリギリスは、アリたちに声をかけました。
「アリさんたち、こっちに来て少し休んだらどう」
アリが答えました。
「ありがとう、キリギリスさん。でも、私たちは仕事があるから」
そう言って行ってしまいました。
キリギリスはのんびり暮していました。朝の涼しいうちに畑仕事をし、昼間暑くなれば木陰で休み、夕方音楽教室を開いて近所の子どもたちにバイオリンを教えていました。アリたちは高給をもらっていましたが、自由に生きるキリギリスの収入は少なく、みんなから負け組のように思われていました。
秋が来ました。アリの運送屋は大忙しです。しかも仕事の種類も増えました。翌日配達は当たり前、クール便、引越し便、メール便、即日便まで始めたもので、目がまわるような忙しさです。いっぽうキリギリスは、秋になっても相変わらず木陰で休みながらバイオリンを弾いておりました。
「ねえ、アリさんたち、少し休んだらどう」
アリたちはもう返事もしてくれません。あんまり忙しすぎて返事をする余裕もないのです。
秋も深まり、キリギリスは畑の作物を収穫し納屋に納めました。アリたちはどうなったでしょう。アリたちはますます忙しくなって、気が変になる者が出たり、過労死や過労自殺も相次ぐようになってきました。
冬が来ました。キリギリスは自家製の小麦でパンを焼き、自家製のジャガイモやカボチャでスープを作っておりました。もしアリが訪ねて来たら食べ物を分けてあげようと思っているのですが、アリは1人もやって来ません。みんな散り散りになってしまったのです。
「アリさんたち、僕の言うことをきいて木陰で休めばよかったのに」
キリギリスがつぶやきました。(終)
※この寓話はすべてフィクションであり、実在の個人や団体とは一切関係ありません。(伊藤)
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