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旅立つ次男へ

第一志望の高校合格おめでとう。あなたも家を出て、遠くの高校に行くのですね。お兄ちゃんは2年前に家を出て、今度はあなただから、お母さんは寂しがるでしょうね。

この山里から高校に通学する場合の往復の時間や労力を考えたら、遠くの高校へ進学して寮に入るというのは、それはそれで、よい選択なのでしょう。

よくがんばりましたね。しかしまあ、関数も平方根も二次方程式も知らなかったあなたが、お父さんやお母さんからちょっと説明を聞いただけで、あとは教科書や参考書を見てどんどん問題を解いたのには驚きましたよ。入試では、数学は全問解いたそうですね。他の教科も頑張りましたね。英語の長文読解はちょっと苦戦したかな。これからも英文を読んで慣れよう。

あなたが中学で不登校になったとき、お父さんもお母さんも心配し、焦りもしました。でも、そのおかげで、中学校の現状や問題点に気づきました。一方で個性の尊重と言いながら、一方で協調性が必要だと言い、協調性の名のもとに同調圧力をかけてくる人もいます。人を悪く言いたくはないけれど、いろいろ、いやな現実を見てしまいました。もちろん、いい先生方もおられますけれど・・・・、先生たちも管理されているようで、しかも長時間労働で、それはそれで気の毒です。

覚えているでしょう、2年前、天童市内の女子中学生がいじめなどを苦にして新幹線に飛び込んだことを。あなたと同じ年で当時中学1年生でした。あのとき、私は、亡くなった子がかわいそうで、たまらない思いでした。本を読むのが大好きな、まじめな生徒だったそうです。クラスの中で力を持つのは、場の空気を読んで巧みに動く生徒たちで、こうした生徒らがいじめにも同調し、まじめに頑張っている生徒の方が追い詰められてしまうのはおかしいです。その子は、「我慢して学校に行くか」「死ぬか」の選択で、死ぬほうを選んだのでしょう。亡くなった生徒の性格もあったのでしょうが、だれか、「学校に行かないという選択もある」と、強くアドバイスしていたなら、あるいは、かつて不登校だった人が後に活躍した話を聞いたり読んだりしていたらと思うと、気の毒でなりません。

あなたが中学校に行かないという選択をしたのは、正しかったと思います。「極度に無理をして学校に行き、心身を病んだり、死んだりするくらいなら、学校に行かないほうがよっぽどいい」と、声を大にして言いたいです。

お兄ちゃんにも言いましたが、人生って、塞翁が馬です。あなたが経験した苦しみが、今後、いいほうに転じるかもしれません。学校に行けずにつらい思いをしたことを、今後、役立つ方向に活かしてほしいのです。世の中にはつらい思いをしている人たちがたくさんいます。そういう人たちに寄り添える人になってください。

いつも言うとおり、お父さん自身は、「 I would be true 」や「雨ニモマケズ」に忠実に生きているわけではありませんが、理想は大事です。理想を掲げて生きてください。

もう、形だけの宿題もないし、運動部に入るよう圧力をかける人などいないから、あなたが大好きな音楽や美術や読書などを思う存分にやってください。

受験が済んでからミヒャエル・エンデの『モモ』を読んでましたね。お父さんも若い頃に読んで、考えさせられた本です。その頃も毎日忙しいと感じていましたが、30余年たった今のほうがずっと忙しくなっています。大人も子どもも、まるでみんなが灰色の男たちに取り囲まれているようです。読み終えてからあなたは言いましたね、「忙しさに追われている人たちを見捨てたくない」って。「やりたくてそうしているんじゃない人がたくさんいると思う」「僕が急がないことで、急がない生き方を見せて、安心させたい」って。そう、その調子で行こう。あなたの未来を応援しています。

 父より

(伊藤一滴)

 

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