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3分の1の暮らしへ

「経済の成長は人を幸せにしない」と主張するフランス人ラトゥーシュ氏の著書『経済成長なき社会発展は可能か?』(邦訳:作品社)を読んでいます。読みやすい本ではありませんが、引き込まれるみたいに読んでいます。

日本語版には自然農法家の福岡正信氏についての言及もありました。福岡氏の著書は翻訳され、フランスにも届いています。そのわりには、福岡正信氏の名は日本であまり知られていないというか、知る人ぞ知るというか・・・・。福岡氏らの自然農法の理論は、農薬も化学肥料もトラクターも使わないで無限に持続する農業理論ですから(福岡正信著『わら一本の革命』他)、人類の生存や環境保全に役立っても、経済活動にとって何のプラスにもなりません。経済成長に役立たないものには、多くの日本人はあまり関心がないのでしょうか。

私は、人々の生活や幸福より経済の成長が優先される今の世は病的だと思いますけれど、世には、経済成長の追及を「健全」と考える人の何と多いことか。「失業対策のためにも経済成長が必要だ」と言う人もけっこういますが、それって、長期的には衰退論です。「地球温暖化のおかげで北極海の氷が解けてきて、氷の下だった油田も採掘可能になった。これで石油は当面大丈夫だ」みたいな、衰退を加速させる理論です。多くの人の認識や思考にまで、資本主義の毒がまわってきているように思えます。当人は、自分が毒されていると思っていないのです。第二次大戦中の日本人のほとんどが、日本の正しさを信じて疑わなかったように。

「伊藤さんは資本主義はダメだと言うけれど、じゃあ社会主義がいいの?」って、よく訊かれるんですが、社会主義がいいなんて言ったことはありませんよ。
私は以前から反共、反左翼です。社会主義のような、人民を抑圧する全体主義国家のどこがいいものですか。
そんな、オセロゲームの黒か白かみたいな、あれかこれかの選択ではないのです。資本主義も社会主義も科学技術とそれに基づく産業に立脚した近代思想です。人類史の中に生じた一時的な思想です。

それはともかく、ラトゥーシュ氏がおっしゃるとおり、経済成長は人々を幸せにしない、ということ。成長のための成長が目的化され、無駄な消費が強いられ、汚染やストレスを増やすだけだということに、多くの人が気づいて、目を覚ましてほしいです。

経済成長のためには産業の発展が必要で、それは環境や人間そのものを破壊します。不可分です。破壊なき経済成長なんてないんです。経済成長と破壊は必ずセットになっています。これまで経済成長による恩恵が言われてきましたが、だんだん恩恵が少なくなってきて、恩恵より破壊による被害が目につくようになってきました。今後ますます恩恵は減って、人類はこれまでのツケの中で生きることになるのでしょう。

世界中の人がフランス人のような先進国の生活をすれば、地球が3つ必要だそうです。地球上で、世界のみんなが先進国の暮らしをするのは生態学的に不可能なのです。
もちろん、今の状態で資本主義を持続させるのも不可能です。無から原料やエネルギー源を造り出し、廃棄物をまた無にするような物理の法則を無視した魔術でも使わない限り。
ひところさかんに宣伝された「快適で便利」だという「オール電化生活」なんて、どだい、広範囲の普及も長期的持続も無理だったのです。全世界でできますか? 先進国の一部だって、今後何百年も続けるめどが立っていますか?

「発展途上国」なんて言いますが、嘘です。もしすべての貧国に発展されたら、先進国の生活水準が維持できなくなります。現在の先進国の人たちは3分の1の生活をしないといけなくなります。

では先進国の人たちは、地球が3つ必要なくらいの原料資源・エネルギー資源を使って幸せかというと、そうでもないのです。氏の指摘のとおり、成長のための成長が目的化され、無駄な消費が強いられ、汚染やストレスを増やしているのですから。これがどこまでも続けば、社会環境も地球環境も、人類の生存に適さないくらい悪化してゆくことでしょう。

私は3分の1の暮らしも悪くないと思います。
無駄な消費をせず、汚染やストレスを増やさない暮らしです。

私の場合、山里に引越して、電気代、水道代などが約3分の1になりました。まきストーブを使うようになって暖房代も3分の1です。山で暮らしているので冷房も扇風機もいりません。夜は快適で、この夏もエアコンなしで熟睡しています。食費は、お米と野菜類を買わずに済んでいるので、正確に計算していませんがかなり安くなっています。東京の設計事務所で働いていた頃を思えば、食費は10分の1以下です。もっともその頃は、連日、南青山で外食していたのですけれど。そして、連日深夜まで働いて、終電に走っていたのですけれど。

かつて私は、南青山の設計事務所で働く建築士でした。今は、山形県の山里に住む農民です。
それで今、みじめかというと、全然そんなことないです。
私たち一家は大自然の中でつつましく、そしてのびのびと暮らしています。生活のスタイルが変わっただけです。

グローバリズムを廃し、ローカリズムに生きるのが私の理想です。スローライフが理想です。
「地球のため、未来のため」なんて、肩肘張って構えなくても、今のほうが楽しいです。いくら、今、貧乏していても。
まあ、いやな仕事を続けながら必死にお金を貯めこんでみたところで、超インフレが来てすべて御破算かも知れませんしね。

今、これを書いていたら、日本の財政赤字が900兆円を越えたというラジオのニュースが聞こえてきました。
えっ、国民は1400兆円持っているからまだ大丈夫ですって?
現金で1400兆円持っているのではありませんよ。資産家だって手元にある現金はわずかで、あとは銀行や郵便局に入れてあります。そして銀行や郵便局はもうすでに相当額の赤字国債を買っています。国民の財産のうちのかなりの額が、赤字国債の購入にすでに使われてしまっているのです。
(伊藤)

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