山形のスローフード・塩引き
昨年の末に塩引き(シオビキ)を作りました。塩引きというのは、川に上って来た鮭(サケ)を塩に漬けて寒風干しにしたものです。山形県村山地方の伝統食で、海から遠い内陸地方の貴重なタンパク源の一つです。
去年の12月、親戚から立派なオスの川鮭を2尾もらいました。ちゃんと漁業組合に加盟している人で、正規に捕獲したものです(あまり知られていませんが、川にも漁業組合があります)。
以前から塩引きを作ってみたかったので、さっそく作り方を教えてもらい、自分でやってみました。
鮭を入れる木箱を作ります。大工さんの道具箱みたいな箱です。あんまりうまく作ると水が抜けないので、適当に隙間を空けて作ります。
鮭は、腹を割いて内臓とエラを取り(これは肥料に使用)、背骨の所の血の濃い部分も取ってよく水洗いします。川鮭の皮はかなりぬめりがあるので、塩をまぶしてすりこみ、木べらでこすってよく洗います。
それから、全体に塩をよくすり込みます。塩は味のよい天日塩を使います。腹の中や、頭、目にも、十分に塩をすり込みます。塩が不完全だと、腐ってきたりウジがわいたりするそうです。
木箱に入れて、ふたをします。野良猫や野生動物にやられないようにです。屋外の日陰に3日半おいて、ひっくり返し、それからまた3日半おいて塩抜きです。
なんで塩漬けにしたのにまた塩を抜くのかと思うのですが、ただ塩に漬けただけではムラがあり、塩辛くて食べられない部分があったりして、全体に塩味がうまくまわらないそうです。塩抜きと言っても完全に抜くのではなく、適度に塩味が残るくらいにします。この、適度が難しいようですね。
桶(おけ)にたっぷり水を入れて、時々かき混ぜながら、8時間かけて塩抜きです。人に聞くと、10時間という人も20時間という人もいます。私は、少し辛口でもいいと思い、8時間にしました。ある程度塩分を残すことで、乾燥中の腐敗防止にもなるだろうと思いました。
8時間後、桶から鮭を取り出して水切りし、エラのあった部分に縄を通し、頭を上にして、洗濯物を干すみたいに軒下につるして寒風干しです。腹の中にも風が当たるよう、割り箸を3等分くらいにして、開いた腹に軽く刺してくっつかないようにします。
こうして、私は1週間干しました。10日以上干す人もいるそうですが、ちょっと堅くなるようです。
さて、1週間後に大きな出刃包丁で切り身にしました。少し焼いてみたらかなり辛口なので、切り身を数時間水に浸してから焼いてみました。
絶品です。絶品。美味。美味。
「川鮭は、川に上ってくる時に体力を使い果たし、身から味が抜けていておいしくない」という俗説がありますが、そんなの、調理法しだいです。調理法しだいで絶品の美味になるのです。水に漬けると、塩は抜けますが、塩味が残るくらいにしておくとうま味はほとんど抜けないようです。数の子みたいなものでしょうか。
頭も出刃包丁で切って、粕汁(かすじる)などに使いました。鮭の頭も美味です。目玉の周りなど、3歳の娘が喜んで食べました。
近所の人たちに切り身をおすそ分けしたら「なつかしいなあ」と喜ばれ、隣町に住む父(74歳)に食べてもらったら「とてもうまい」と喜ばれ、さらに、正月の我が家の食卓を飾り、それからしばらく我が家のおかずになりました。
山里の冬の暮らしは雪も多くて不便と見られがちですが、絶品の美味を、ふもとの川に上って来る鮭で作ることが出来ます。なにも遠い海外から食材を得なくてもいいし、高いお金で買った食材だからうまいという比例関係でもありません。
わが国の農村や山間部は、実は豊かであり、安価で、またはタダで手に入るものが、とても美味だったりするのです。(伊藤)
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