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住宅論のことなど

前回も書いたとおりで、これまでいろいろな住宅論に接してきましたが、一番印象に残っているのは山口昌伴著『図面を引かない住まいの設計術』[王国社刊]です。これ、冗談のようなおもしろおかしい話が続いていて、勉強のためというよりおもしろいから読んだのですが、建築の要点をしっかりふまえていて、どの設計教科書よりためになりました。建築業界以外の人でも読むとおもしろいと思います。

住宅ではありませんが、自分の設計事務所の設計室を和室にしたのもこの本の影響あってのことです。
畳の上に骨董市で買った古い文机(ふづくえ)を置き、その上にパソコンの液晶ディスプレーとキーボードとマウスを置いて、書類を書いたりCADで図面を描いたりしています。たくさんの紙の図面や規準書などを畳の上に広げて作業できるので、本当に使い勝手がいいです。洋室の場合、まさか床に書類や本を並べるわけにもいかず、たくさんの資料を同時に広げるためにはたくさんの机が必要になります。机は机以外には使えずベッドにはなりませんが、私は疲れると畳の上の資料を隅に寄せてゴロンと横になります。洋室ではそうはいきません。
畳というのは、汎用性の高い優れものです。

住宅の間取りも、各部屋の役割をあんまり固定せず、汎用性を高めた方がいいと思います。寝室以外に使い道のない部屋、応接間以外に使い道のない部屋など、お勧めできません。かつて(今も?)、なんとなく洋風っぽい住宅がはやりました。正式な洋式の建築ではありません。なんとなくです。たぶん、洋風っぽいのがかっこよく思えてそうしたのでしょうが、「寝室」や「応接間」が使い物にならず、物置になっている例をいくつも見ました。
防音やプライバシーについてもいろいろ言われますが、家の中で家族を呼んでも子どもが泣いていても聞こえないような遮音性の高い住宅がいい家だとは思えません。私、以前住んでいた家で入浴中、お風呂の戸が開かなくなってしまい、大声で妻を呼んだのに全く聞こえなかった、ということがありました。よっぽど、タオルを腰に巻いて窓から出ようかと思いました。気持ちの焦りを抑え、なんとか内側から戸をはずしてやっと出たのですが、同じ家にいるのに呼んでも全然聞こえないような遮音性の高い家はこりごりです。プライバシーにしても、極端に重視すれば家族をバラバラにするだけでしょう。
その点、日本の伝統民家の間取りは実によくできていて完成度が高いと思います。

子ども部屋についても、いろいろ言われています。凶悪事件と家の間取りについて論じた『子供をゆがませる「間取り」』[横山彰人著、情報センター出版局刊]なんて本も出ているくらいです。条件のいい場所に子ども部屋をつくったのに、子どもが巣立ったあとに物置になっているという例も多いです(実は、私の実家も、建て替え前の妻の実家もそうでした)。
いろいろな方がいろいろなことをおっしゃるのですが、伝統民家の間取りにはそもそも子ども部屋などないのに、そこで多くの子どもは何の問題もなく育っていった、という事実は、一つの答えではないかと思います。(伊藤)

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