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さとうきび畑の唄

情報化社会になって、自分の頭でじっくり考えることが難しくなってきました。テレビやインターネットは日々どうでもいいような情報や事実のある一面だけを誇張した情報をたれ流しています。情報が多すぎて、個人の思考の範囲を超えました。しかも変化が速く、やっと考えた頃には状況が変わっていたりします。その結果、なんとなくイメージに流されるようになり、自分の頭でじっくり考えることが難しくなってしまったのです。困ったことです。

テレビのドラマも飽和状態で、あの番組は名作だと長く語られることもありません。番組の量自体が増えていること、リモコンですぐに変えられるようになったことなども関係しているのでしょう。
せっかくいいテレビ番組がつくられても、しょうもない番組の膨大な海の中に埋もれそうになります。これも、大量の情報供給が可能になった時代の負の面だと思います。残念なことです。
だんだんテレビが「時間どろぼう」に思えてきて、私はふだんテレビを見なくなりました。

そんな私ですが、正月(1月2日だったと思います)にTBSのドラマ「さとうきび畑の唄」の再放送があったので、妻と見ました。1ヵ月も前の放送の話が今頃になってしまいましたが、テレビをじっくり見たのは数年ぶりで、印象に残っています。

「さとうきび畑の唄」はなかなかの力作でした。
民放ですから、CMが入るのは仕方ありません。番組の内容の重さと能天気なCMの落差は極端でしたが、まあ、仕方ないです。民放ですから。
沖縄で本格的にサトウキビの生産が始まったのは戦後になってからなので、あの風景は不自然だとか、登場人物の髪型や言動が時代に合わないとか、いろいろ批判もあるかもしれませんが、それでも力作だと思いました。

一般庶民が戦争に巻き込まれ、ささやかな幸せさえ踏みにじられていくこと。そうした中、筋の通った意見が、暴力的に押さえ込まれてしまうこと、逃れようのない状況で死を強要されてしまうことなど、うまく表現されていたと思います。
明石家さんま氏が熱演していた写真館の主人の発言は、まっとうな言い分でしたし、息子の嫁の発言、京大の学生らしい学徒兵の発言も、実に筋が通っていましたが、暴力的に封じられていきました。
インテリたちは世界を知っていたし、庶民の中にも庶民の感覚でこの戦争はおかしいと気づいていた人がいました。でも、どうすることもできません。
戦車に向かって生身の人間が突撃して勝ち目がないことぐらい、誰でもわかることなのに、それでも突撃が命じられるあたり、太平洋戦争下の日本の状況がよく表現されていたと思います。もう日本側には戦略も戦法もなくて、ただ滅茶苦茶あるのみ、軍事的には無駄でしかない突撃あるのみ。命じる側には、部下に行かせて自分は行こうとしない人もいます。

「くやしいね」
見終えて妻が言いました。
そう、悲しいというより、くやしい。私もそういう気持でした。
まっとうな意見は圧殺され、米軍への投降も許されない。意義を見いだすことが出来ない死が強要される。一人ひとりに命があり、家族があるのに、丸太のように転がる、犬死のような、累々たる屍。
悲しいというより、くやしい。

でもそれを全くの無駄死にだ、犬死にだと、言い切ってしまうには抵抗があります。
もし、戦争犠牲者の死に意味を求めるなら、多くの死によって、その後の日本の平和主義を方向づけることになった、尊い犠牲というべきでしょう。
ということは、日本がもし平和路線を方向転換する事態になれば、それは戦争による死者をもう一度殺すに等しいと言えます。

「沖縄は日本にとって特別な場所ね」と妻は言います。広島や長崎を忘れてはいけないのと同じくらい、沖縄を忘れてはいけないと、私も思います。(伊藤)

補注:ある種のイデオロギーを持つ人たちの中に、自分たちのイデオロギーを正当化するために日本の戦争責任をことさら強調し、利用する人がいたし、たぶん、今もいるでしょう。フェアではありません。そのせいで、戦争について批判的なことを言うと、何か特定の思想の影響下にあるように思われることがあり、迷惑な話です。言うまでもないことですが、戦争責任は客観的事実であり、特定のイデオロギーとは関係ありません。
読売新聞は右派とされていますが、2005~06年に掲載された「検証 戦争責任」は、かなり公正でていねいな検証だったと思います(中央公論新社から、全2巻で出版あり)。右派とされる読売新聞でさえ認めないわけにはいかない戦争責任が、客観的に存在しています。
「文芸春秋」も右派とされていますが、その「文芸春秋」の編集長だった半藤一利氏の『昭和史』[平凡社]も、日本がどのように戦争に進んでいったのか、ていねいに論じています。

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