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「だって戦争に行きたくないじゃん」 戦争法案の本質

自民党の国会議員が、Twitterにこう書いた。

「SEALDsという学生集団が自由と民主主義のために行動すると言って、国会前でマイクを持ち演説をしてるが、彼ら彼女らの主張は『だって戦争に行きたくないじゃん』という自分中心、極端な利己的考えに基づく。利己的個人主義がここまで蔓延したのは戦後教育のせいだろうと思うが、非常に残念だ」(2015年7月31日)

反論するにも値しない書き込みであり、こんな短い文章なのに、よくこんなにと思えるくらい幾重にも誤りがある。詳しく論破するほどの価値もない文章なので簡単に書くが、SEALDsは、「だって戦争に行きたくないじゃん」などと単純に言っているわけではない。憲法を頂点とした日本の法体系をなし崩しにしようとする現政権を批判し、憲法を守れと主張しているのだ。法の秩序が時の権力の恣意的解釈でどうにでもなるようでは、民主主義は死んでゆく。そうあってはならないと言っているのだ。「戦争に行きたくない」という主張も含まれるだろうが、それは人を殺したくないし自分も殺されたくない、相手の家族も自分の家族も悲しませたくないという思いであり、「自分中心、極端な利己的考え」とはまるで結びつかない。今の日本に利己的な考えが広がっているのは私も認めるが、それは「もうかりゃいい」といった考えであり、デモに参加している若者たちの発想ではない。言うまでもないが、利己的な考えと「戦後教育」も結びつかない。むしろ、あなた方自民党政権が進めてきた経済最優先の政策によって、利潤追求を至高とする価値観が拡大したのではないか。日本は豊かになったと言うけれど、必要を越えた豊かさを支え続けるために、資源を無駄に使い、環境を破壊し、国内外に犠牲を強いて、人は振り回され、みんな忙しくなって余裕を失っている。互いに助け合ってきた日本の美風は失われ、何もかもが競争になり、損得勘定が価値基準となってしまった。そうした原因のすべてが自民党にあるとは言わないが、あなた方、自民党も加担してきたのだ。経済最優先の毒は人々の精神までおかしくして、身勝手な人が増えてしまった。「極端な利己的考え」「利己的個人主義」を蔓延させた責任の一端は、自民党と財界にある。これは、否定できない。今も、「今だけ、金だけ、自分だけ」という身勝手な風潮に支えられ、アベノミクスが支持される。現政権の支持者の多くは経済的な効果を期待しているだけであって、安倍カラー(極タカ派路線)の支持者などほとんどいない。「もうかりゃいい、思想なんか何でもいい」といった利己的な考えが、極タカ派路線を黙許しているだけであろう。

ここまで言ったのだから教育についても言うが、部分的にはいろいろあるにせよ、全体として、戦前の日本の教育は戦後より優れていたと言えるのだろうか。戦前の教育は国民に滅私奉公的価値観を植え付けた。滅私奉公の価値観で、日本は極端な軍国主義に走り、無謀なアジア太平洋戦争に突入し、数多くの他国民を殺しながら自国民も死に、戦略的に意味のない死を増やしながら敗戦必至の戦いを続けたのではなかったのか。戦争による死に意味を求めるなら、その犠牲の後の平和の中に求めるしかない。

ちなみにこの議員、ジャーナリストから「いざ、戦争になったら**議員自身は、一兵卒として戦地の最前線に行くご覚悟はあるのか。戦場で死ぬご覚悟はあるのか?」問われ、答えなかったという(出典:http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20150807-00048269/)。

まあ、批判はこれくらいでいいだろう。

私はこの議員の書き込みには、別の価値があると思っている。それは、戦争法案(安保法制)の本質を、現職の自民党議員が語ってくれたという価値である。

「だって戦争に行きたくないじゃん」

自衛隊員でもない一般の若者が戦争に行くことになる法案である、だから彼らは反対しているのだと、ズバリ語ってくれたのだ。これこそが法案の本質であろう。

政権与党の口約束などあてにならない。歴代政権は「集団的自衛権は認められない」と一貫して言い続けてきた。だのに突然「認められる」に転じた。今、「徴兵制はありえない」といくら言ってみたところで、やがて「徴兵制を実施する」と言い出すのかもしれない。

自公政権は巧妙だ。いきなり徴兵制の実施などはしない。生のカエルを水からゆでるように、少しずつ慣らすのだろう。国民を慣らす途上の戦争法案(安保法制)であり、このような法案が通ってしまうほどの憲法の恣意的解釈にも、国民を慣らしてゆく、ということであろう。その先に、自衛隊員でもない一般の若者が戦争に行く国が待っているのだ。

(伊藤一滴)

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